世界を旅し、美しい風景や歴史・文化を紹介するトラベルカルチャー誌TRANSIT。よりよい未来を拓くために、心身にも環境にもやさしいIntoの製品とともに各地を旅し、伝統的なものから新しい潮流まで、気になるライフスタイルを追いかけます。第3回は、ハンガリーのブダペストからスロバキアへの日帰り旅。

ブダペスト西駅からエステルゴムへ
今日はブダペストから日帰り旅行をすると決めた。向かう先はエステルゴム。ドナウ川沿いにあるこの小さな街は、ハンガリーのスロバキアとの国境に位置している。ここでは橋を渡るだけで簡単に国を越えられる。ヨーロッパのシェンゲン圏ならではの特権だ。出発前にブダペスト西駅を少し見学。この駅はクラシックな建築様式と鉄骨構造が融合した美しいデザインで、エッフェル塔を設計したエッフェル社によって手がけられた。1877年に開業し、今もその姿を誇っている。

ハンガリーの人口の約20%が首都ブダペストに集中しているため、都市の景色はすぐに広大な田園風景へと変わる。車窓には、森や小さい三角屋根の家々が広がる。グリム童話の世界のようだ。列車が北へ進むにつれて空は暗くなり、気温も下がる。到着前に唇にIntoのバームを塗って、寒さに備える。

カラフルなエステルゴムの街並み
エステルゴム駅から中心部までは徒歩で約30分。10世紀から13世紀にかけてハンガリーの首都だったこの街には、ピンク、黄色、緑といった鮮やかな色の建物が並び、今日の灰色の空と対照的だ。ハンガリーの初代国王、イシュトヴァーン1世が生まれた街としても知られている。

ハンガリー最大の教会へ
エステルゴムといえば、ハンガリー最大の教会「エステルゴム大聖堂」が有名だ。1869年に完成し、街のシンボルとなっている。作曲家フランツ・リストはこの教会の献堂式のために「グランのバジリカ落成のためのミサ・ソレムニス」を作曲したという。ドナウ川沿いに建つこの大聖堂をもっとも美しく眺めるには、実は対岸のスロバキア側、シュトゥーロヴォの川岸へ行くのがベストだ!

スロバキアへ徒歩で国境越え
いよいよ、徒歩で国境を越える。ドナウ川に架かるマリア・ヴァレリア橋は、もともと1893年に建設されたが、1944年にナチスによって破壊された。その後、ソ連の衛星国時代にハンガリーとスロバキアの関係が悪化していたため、再建されることなく放置されていた。ようやく2001年に修復され、新たな世紀の始まりとともに再び両国をつなぐ橋となった。この橋を渡るだけで、言語が変わり、食文化が変わり、通貨が変わり、法律すら変わる。わずか数歩で、まったく異なる世界へ。

食事で新しい文化を発見
せっかくスロバキアに来たので、現地の料理を試してみることに。小さな食堂に入ると、周りは楽しそうに談笑する年配のカップルたちと、ビールを片手に語らう地元の人ばかり。店員さんに「定番料理は?」と聞いて、おすすめされたものを注文。正解だった。柔らかく煮込まれた豚肉とキャベツ、そして皿に残ったソースをすくうための白パン。甘じょっぱい味つけと、ほろほろの肉が、1℃の寒さで冷えた体をしっかり温めてくれる。

シュトゥーロヴォの街を歩く
食後はシュトゥーロヴォの街を少し散策。美しいが、どこか寂しげな建物が点在し、時代の流れを感じさせる。この国が誕生したのは1993年。つまり、ここに建つ多くの建物は国よりも長い歴史をもっているのだ。道を歩いていると、地元の人が微笑みながら「こんなところに観光客が?」というような表情を向けてくる。

ドナウ川、時の流れ、そして荘厳な大聖堂
まさにこれこそが、私がここに来た理由。たった1時間前にいた国を、今は別の国の対岸から眺めている。ドナウ川のほとりにそびえ立つエステルゴム大聖堂は、堂々たる存在感を放っている。周囲には中世の城の遺跡、19世紀の城、20世紀の家々が点在し、異なる時代の歴史が折り重なる。国境を越えたからこそ、向こう岸の国の美しさを、改めて実感することができた。
Photography & text =TRANSIT

掲載号
TRANSIT67号
新時代の中欧浪漫紀行 ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー
2025年3月13日発売
価格:1980円(税込)