世界を旅し、美しい風景や歴史・文化を紹介するトラベルカルチャー誌TRANSIT。よりよい未来を拓くために、心身にも環境にもやさしいIntoの製品とともに各地を旅し、伝統的なものから新しい潮流まで、気になるライフスタイルを追いかけます。第2回は、高峰の多い台湾の東部にある、標高3,603mの向陽山への旅。
いきなり巨大な山塊が現れる
台北市街からクルマで走ること約4時間。花蓮を過ぎたあたりで突如として山が現れる。しかも穏やかさとは無縁の、急峻なその姿はまるで壁。台湾の中央部には広大な山脈が広がっていて、写真に写っているのはそのうちのひとつである海岸山脈。その名の通り、海のすぐそばから急激に立ち上がるその姿は迫力満点。日本では見ることのできない風景に息を飲んだ。
おもむろに登場する個人的野菜市
花蓮近辺から見かけるようになった道端の野菜市。カゴを足場に板を渡しただけの簡素な作りだが、朝から大人気で次から次へと近隣の人々が原チャリを飛ばして買いにくる。聞けば花蓮周辺は台湾の中でも機農業が発達している場所ということで、個人農家も多く、こういった個人市がいろんな場所で開かれているという。
台湾屈指の米どころ池上郷
目的地の向陽山は、台東県池上郷の近く。池上郷は台湾屈指の米どころとして知られていて、山麓には広大な田園風景が広がる。良い米が育つということは、土壌が良く、水も綺麗ということ。それすなわち、山が豊かだということだ。日本の米どころにも、いつもそばには美しく豊かな山がある。田園風景の向こうに見え始めた目指すべき山に期待が膨らんだ。
登山口からすぐに豊かな原生林が広がる
向陽山の登山口からの登り始めは、松の森が広がる。植生自体は日本の山に近いところもあるけれど、下草(下層植生)の豊かさが段違いだ。こうした下層植生がしっかりと根を張っているおかげで、山にたっぷりと栄養を保持することができ、その栄養が川を伝って里へと下りていく。なるほど、池上郷のお米がおいしいのも納得だ。あいにくの雨だったけれど、すくすく育った木々の葉っぱのおかげで思ったほど濡れずにすむ。
親切な道標と電波状況に驚く
photo by Takashi Sakurai
台湾の山を歩いていて「これはいい!」と感激したのは約1kmごとに立てられた道標。登山口からの距離と、次の目的地までの距離が書いてあるだけの簡素なものだが、すべて統一されていて、シンプルな作りなので景観も邪魔しない。リフレクターがついているので、御来光を見るために早朝の暗いうちから歩き出しても道迷いの心配はない。そして驚いたのは山に居た間中、ずーっと電波は5G。さすがIT先進国台湾。遭難してもすぐさま救助を呼べるのだ。
予想以上に快適な向陽小屋へチェックイン
初日に泊まった向陽小屋の寝室の様子。もっとワイルドなものを覚悟していたが、マット完備・掃除も行き届いていてとても綺麗。ブースごとにカーテンで仕切ることができるのでプライベートも確保できる。70人ほど収容できる規模があったが、この日は3人のみ。これでビールなんかが売ってたら最高だったんだけど、残念ながらこの山域では小屋での販売はなし。
頑張って登った先には極上のトレイルが待っている
傾斜のきつい登山道を頑張って登ること2時間。森林限界を抜けると、どこまでも続きそうな気持ちのいいトレイルが見える。稜線に出てしまえば急な登りなどもなく快適に歩いて行ける。写真の場所はすでに3,000mを超えていて、日本だったら岩だらけになるところだけど、緯度が低い関係で低木がたくさんある風景も新鮮だった。
テント場はウッドデッキスタイル
2日目以降は嘉明湖避難小屋でテント泊。地面にそのまま張るのではなく、3つのウッドデッキが用意されていて、ソロテントだったら各6張ほど張れるスペースがある。夕闇に包まれていく直前のマジックアワーを独占できる極上のテント場で、眼前には雲海が広がりまるで天上人の気分。
何度も現れたブロッケン現象
ブロッケン現象とは、霧が立ちこめる高山でまれに見えるもので、自分の影の周りに小さな虹の輪が出現するというもの。日本の高山でごく稀に目にしたことがあったけど、向陽山近辺では何度も現れたのには驚いた。多湿で霧が出やすく、しかも3,000mを超えるという気象条件が、ブロッケン現象が起こりやすい要因なのだろう。まるで後光が差したようなその様子に、古の人が神を見たのも納得できる。
どこまでもつづく迫力の雲海
日本の山々より規模感が大きいため、雲海の出かたも大迫力。しかも運がよかったのか毎日見ることができた。台湾で雲海というと阿里山国家公園近辺が有名だが、この向陽山の雲海もなかなかのもの。ちなみに台湾で雲海を見たいなら11〜4月頃がおすすめ。北東から流れ込む季節風が中央の山塊にぶつかることでダイナミックな雲海や、滝のような雲爆も現れる。
photography=Kei Taniguchi text=Takashi Sakurai
掲載号
TRANSIT66号 台湾の秘密を探しに。
2024年12月12日発売
価格:1980円(税込)
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