世界を旅し、美しい風景や歴史・文化を紹介するトラベルカルチャー誌TRANSIT。よりよい未来を拓くために、心身にも環境にもやさしいIntoの製品とともに各地を旅し、伝統的なものから新しい潮流まで、気になるライフスタイルを追いかけます。第4回は、モンゴルの自然を満喫できるテレルジ国立公園へ。
カラフルな建物と日本車で溢れる首都ウランバートルの街並み
テレルジ国立公園は首都ウランバートルから車で2時間ほど走った場所にある国立公園で、丘陵や奇岩などモンゴルらしい風景が楽しめる場所。ウランバートルから日帰りで気軽に訪れることができ、外国人だけでなくモンゴル国内の人びとにも人気のレジャースポットだそうだ。
ウランバートル近郊は人と動物の暮らしが混在
しばらく走ると、車は一本道に出る。時折、動物たちが悠然と道路を横断していく。すべて遊牧民が飼う家畜だ。日本には「動物に注意」といった道路標識がよくあるが、モンゴルでは当たり前の光景だからか、そのような標識があまり見当たらない。動物たちが横断するのを車はおとなしく待つ。少なくとも日中であれば車と動物の衝突事故が起こることはないらしい。
敷地内に並ぶゲルに、モンゴルにいる実感が湧く
さらにしばらく走ると、ゲルがぽつぽつと見えてくる。遊牧民が暮らすゲルもあるが、このように10〜20ほどのゲルが並んでいる場所はたいてい旅行客の宿泊用ゲルだ。テレルジ国立公園内や周辺にはこのようなツーリストキャンプが多く運営されており、食事処や風呂、トイレが整っているところも多い。公園内では遊牧民は住むことはできないが、家畜の出入りは許されているようで、馬や羊の姿も見られる。
photo by Tetsuo Kashiwada
巨大な「亀石」は首のあたりまで登ることもできる
テレルジ国立公園のシンボル「亀石」は、高さ約15mの巨大な花崗岩。縁起が良いとされる亀の形から、地元の遊牧民から信仰されてきたという。オイラト・モンゴルの皇帝がここに財宝を隠して逃げたという伝説も残っている。
アリヤバル寺院本堂へ、写真右端の建物が本堂
アリヤバル寺院は1998年から2004年にかけて建てられたチベット仏教の寺院で、岩山の山肌に建ち、ちょっとした登山気分が味わえるそうだ。本堂に向かう道には、チベット仏教の教えが書かれた看板がずらりと並んでいた。入口にルーレットのようなものがあり、止まったところの数字の看板に書かれた言葉が今の自分に必要な言葉らしい。私が引いた122番の言葉は、「ダーマか世界か、速やかに選択せよ。異なる二つの崖に足を掛けてはいけない」
「瞑想寺」とも呼ばれるアリヤバル寺院
チベット仏教はモンゴルの人びとにとってアイデンティティの礎になっている。モンゴル人の名前はチベット仏教に関連する言葉が基になっていたり、家具などの装飾品に描かれる模様はチベット仏教由来のものだったりする。歴史的にモンゴル人のダライ=ラマ(チベット仏教の最高責任者)も存在している。本堂は色とりどりの鮮やかな模様が施されており、色調が遊牧民のゲルの内部とよく似ていると思った。瞑想を行うには刺激が強いような気がするが、モンゴルの人びとにとっては守られているような気持ちになる、落ち着く空間に違いない。
煩悩の数を表す108の階段を登って辿り着く、本堂からの景色
本堂の前にはテレルジ国立公園内の広大な風景が広がっていた。乾いた空気のおかげで、はるか遠くの山まで鮮明に見渡せる。広さはどれくらいなのかとガイドのトゥルに訊くと、「知らない」。モンゴルはあまりにも広すぎて、土地と土地を隔てるという概念が薄いように思う。後から調べると2,920㎢。東京ドーム何個分なのだろうと思っていたら、東京都の1.3個分だった。
テレルジ国立公園からチンギス・ハーンテーマパークへ
テレルジ国立公園から1時間ほどさらに走ると見えてくるのが、チンギス・ハーンの巨大な騎馬像だ。2008年ごろに民間企業によって作られたもので、遠足で訪れたらしい小学生の団体の姿が見える。モンゴルには歴代の王の城や墓、寺などといった歴史的な建造物がほぼ存在しない。チンギス・ハーンをはじめ、モンゴル帝国の皇帝はそういったものを作りたがらなかったからだそう。寺院は社会主義時代のチベット仏教弾圧でほぼ破壊された。だからこそ、民主主義に転換してからぽつりぽつりと建てられたこのような像や寺、伝説を伝える奇岩が、国を象徴するものとして人びとに大切にされているのだ。
photography & text =TRANSIT

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TRANSIT68号
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